夏の終わり、秋の気配。

ⅰ 夏の終わり

五山の送り火が終わって、つかの間の静けさが戻ってきた京都。

風鈴寺㊺A

そう言えば、正寿院さんの風鈴祭もあと少し。夏の風物詩が一つずつ店仕舞いをしています。

それにしても、今年の夏は連日の暑さと天候不順に手を焼きましたね。

その分、秋の訪れが待ち遠しい季節です。

すぐそこに来ている秋。皆さんはどんな時にそんな秋を感じるでしょうか?

国立天文台暦計算室という天文の統計データなどを管理する機関に『暦Wiki』というコラムがあります。

いろいろ面白いことが書かれているのですが、その中に秋がいつからいつまでなのか、本当の定義は存在しないと書かれていました。

明治時代まで使われていた太陰太陽暦だと、秋は7月から9月、現在の太陽暦だと9月から11月がおおよそ秋とされています。

温暖化の影響もあると思うのですが、昔の人と今の人とは、きっと秋を感じる時が一ヶ月ちょっとズレていたのかもしれません。

(株)マーケティング・リサーチ・サービスさんの『 「秋」と言えば何をイメージする? 』という調査の中に「秋を感じるとき」という質問がありました。 https://digmar.jp/2023/09/11/5777/ )

どんな時に秋を感じる図AA

気になったところにアンダーラインを引いて見ました。

どんな時に秋を感じるかというと、圧倒的に多いのが「紅葉を見た時」、「気温が涼しくなってきたら」という回答でした。

それから、「虫の鳴き声」、「秋晴れの空」、「スーパーの秋の食材」、「トンボ」、「金木犀の薫り」、「落ち葉」、「焼き芋」……など、答えた人の身近な生活感をうかがえるものもありました。

秋の訪れに秋だと感じる人もいるし、秋の深まりをまさに秋だと実感する人もいるんですね。

今回の『夏の終わり、秋の気配』は、木屋町三条にあるおばんざいのお店『めなみ』さんの暖簾をくぐるところからスタートしました。( https://www.menami.jp/ )

 

訪れたのは8月20日、昔の暦だと秋のど真ん中、今の暦だと夏の終わり………どんな味覚に出会えるのでしょうか?

ⅱ おばんざい -夏の終わりと初秋-

めなみ店内A

まだまだ蒸し暑さが残るこの季節、『めなみ』さんのお品書きも、夏の終わりのご馳走とすぐ目の前に迫った秋のご馳走が色とりどりでした。

お店に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、一仕事終えたサラリーマンがビールを美味しそうに飲んでいる姿。

グッと飲み干すビールの傍らには、この「だだ茶豆」がありました。

京都では、この季節、甘みと濃厚な風味で香りも強い「だだ茶豆」が好まれます。

 

だだ茶豆➀A

☆ だだ茶豆

栽培する土地が合わないと風味が落ちてしまうことから、生産地が限られ、「幻の豆」とも言われています。

紫ずきん②A

そしてブログを投稿する9月中旬に『めなみ』さんにも登場するのが、写真の「紫ずきん」。

豆の薄皮が薄紫色をしていて、形が頭巾のようなのでそんな風に呼ばれているそうです。

丹波地方の農家では「祭りのえだまめ」として親しまれ、粒が大きく、コクがあって甘味たっぷりの秋の枝豆です。

夏と秋をまたぐご馳走は野菜だけではありませんでした。この日、お品書きにあったのは、「はもの天ぷら」と「あゆの炊き込みご飯」。 

はも天ぷら➀AA

☆ はもの天ぷら

「はも」と言えば京都というイメージが強いと思いますが、瀬戸内海に面した兵庫県、徳島県、愛媛県、山口県で多く水揚げされるそうです。

夏の暑い時期、盆地の京都は新鮮な魚を仕入れるのに苦労した時代がありました。

その頃から、生命力の強い「はも」は重宝されていたようです。しかも、小骨が多い「はも」の骨切り技術を編み出したのは京都の職人さん。

夏の味覚のイメージが強い「はも」ですが、瀬戸内海では10月くらいまで水揚げされます。

実は秋深まる頃、もう一度美味しいタイミングを迎えるらしいです。秋の「はも」は、産卵を終え食欲が増し、脂がのってとっても美味しいとか。ぜひ、もう一度暖簾をくぐってご賞味にあずかりたいですね。

あゆは、この日、「焼あゆの炊き込みご飯」で登場しました。

焼あゆ炊込ごはん➀A

☆ 焼あゆの炊き込みご飯

天然アユは、出まわる時期が限られていて、特に初夏の代表的な味覚です。

活あゆの塩焼A

『めなみ』さんでは、夏と秋、あゆを一番美味しく食べられるよう、塩焼きでお客さんに出されることもあります。

あゆの独特の香気を逃すことなく、味わえる塩焼きはこの季節のご馳走です。

 

続いて、「冬瓜(とうがん)とトマト冷しあんかけ」です。

冬瓜とトマト冷やしあんかけ➀A

☆ 冬瓜とトマト冷しあんかけ

「冬」の「ウリ」と名前がついているに、夏から見かける野菜です。

というのは、収穫されるのが7月から10月くらい。

冬瓜➀A

暑いさなかに収穫された冬瓜ですが、熟すと皮が厚くて硬くなるので、水分の蒸発を防ぎ瑞々しいまま、3ヶ月ぐらい保存できるそうです。

ところで、「冬瓜と冷しトマトあんかけ」、絶品です。冬瓜の甘みと舌にピリッと来るトマト、職人さんに謎解きを尋ねようと思っていたのですが、ついタイミングを逸してしまいました。

一般のご家庭でも、冬瓜はこれから涼しくなってお味噌汁やひき肉とあえた煮物としても登場しますね。

そして、ぜひ一度、京都で食べていただきたいのが、この「焼万願寺ししとう」です。

焼万願寺ししとう➀A

☆ 焼万願寺ししとう

お店によっては、「万願寺とうがらし」と呼ばれることもあります。

「ししとう」と「とうがらし」、どこが違うのかというと、辛味のある品種を「とうがらし」、辛味のない品種を「ししとう」と呼ぶとか……。

大正時代、京都府舞鶴市万願寺で生まれた万願寺とうがらしが原種らしいのですが、当時は栽培がむずかしく、京都を代表する野菜となるまでとても苦労の年月があったと聞いたことがあります。

5月から10月下旬まで出荷される「万願寺ししとう」、ぜひ、肉厚で甘いししとうを召しあがってみてください。

そして、『めなみ』さんのカウンターにデーンとのった賀茂茄子。

めなみ店内➀A

この時期の野菜の横綱です。正円形で直径は12cmから15㎝。大きなものだと1キロを超える重さになります。賀茂なすの収穫時期は5月中旬から9月下旬だと言われています。

主に、北区の上賀茂や西賀茂が産地です。将軍塚から撮った京都盆地の写真だと、黄色の枠あたりです。

将軍塚➀

この場所はどんなところかというと、赤い矢印の西から流れて来る賀茂川と東から流れて来る高野川に挟まれた扇状地なんですね。

鞍馬山や比叡の栄養たっぷりの水が浸み込んだ土で、美味しい賀茂茄子が出来上がります。

賀茂なす揚げだし➀A

☆ 賀茂なすの揚げ出し

そして出来上がったのが、この賀茂なすの揚げ出し。肉質が緻密で弾力があって上にのっているダイコンとの食感が絶妙でした、

鬼おろし

ちなみに、上にのっかっているダイコンは、「鬼おろし」で擦ったものだそうです。

こんなギザギザの「鬼おろし」を使ったダイコンは、シャキシャキ、コリコリして茄子との相性が抜群でした。

 

ⅲ 編集後記

『めなみ』さんを訪れた8月下旬、そしてブログを投稿した9月16日、ほんの数週間の間に、秋の味覚のバリエーションもまた変化していると思います。

外に目をやると、城南宮の女郎花(おみなえし)が見頃を迎えていました。

女郎花(城南宮)A

梨木神社の萩は満開までもう少しですが、街中には紫色の小さな花が見られるようになりました。

萩③

昨年の秋、「秋の七草」を探して京都市内を歩き回ったことがあります。

女郎花や萩、桔梗、藤袴(ふじばかま)、尾花、葛(くず)までは探したのですが、残念ながらあと一つ、撫子(なでしこ)は季節が終わって、とうとう見つけることができませんでした。

秋は、ぼおっとしているとあっという間にシャッターチャンスを逃してしまいます。

晴明神社 桔梗

☆陰陽師で有名な安倍晴明神社(この季節、桔梗お守りが人気です)

『めなみ』さんの秋の献立も、9月入ると主役は賀茂茄子から松茸に変わるそうです。

「どんな時に秋を感じるか? 」、本当に人それぞれですね。

ぜひ、五感を研ぎ澄まして街中を散策してみてください。まだまだ知らない秋をきっと発見できると思います。

紅葉シーズンにまだ早い京都。

最近は観光に訪れた外国人に日本の秋の魅力を教わることも多くなりました。笑

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