冬の京都、優しい時間。。
ⅰ 師走の京都
12月上旬、赤や黄に染まった音羽山や小倉山がちょうど紅葉の見頃を迎えていました。(※写真は、清水の舞台、二尊院、真如堂、法然院です。)


たくさんの観光客の中には、世界中から訪れた外国人もいます。
ある方に聞くと、紅葉は外国の人たちに見たことのない風景として映ることもあるそうです。それは、国によって山が赤や黄に染まることがないから。
ずいぶん昔の氷河期に、大陸の大半が氷河に覆われ、その時、多くの広葉樹が死滅したらしいです。
美しい京都の紅葉をたくさんの外国人の方にも愉しんでいただきたいですね。


ところで、京都のお土産屋さんや食事処は、そんな紅葉シーズンが一年で一番忙しい時。慣れない外国人の接客にてんてこ舞いの様子を見かけることもあります。
11月26日、師走を迎える南座に歌舞伎役者の名前を書いた「まねき看板」が掲げられました。


65枚の看板が四条大橋のたもとを飾ると、街行く人は一年の終わりが近づいたことを感じます。
千本釈迦堂では、12月7日と8日、「大根炊き」も無事開催されました。
まんまると大きいだいこんに書かれた「梵」の文字は、その昔、お釈迦様が悪魔の誘惑に負けずに修行を重ね、12月8 日の夜明け前にさとりを開いた事にあやかって「梵」と墨で書くそうです。


大きなお椀を手に取り、たっぷりと醬油出汁で煮込んだ聖護院だいこんをいただくと、体も温まり寒さが吹き飛んでしまいます。
この季節、新年を迎えるお寺や神社では煤払い(すすはらい)がはじまっていました。
神社本庁のホームページを見ると、煤払いは「正月迎え」、「ことはじめ」、「ええことはじめ」、「まつならし」と、お掃除の意味だけでなく、お正月に年神さまをお迎えするお正月準備の意味もあるそうです。https://www.jinjahoncho.or.jp/


そして、12月27日は知恩院の除夜の鐘・試し突きの日。

ずーっと縄で止められていた撞木(しゅもく)もようやく出番ですね。
そうして京都には「おもてなし」から少し解放された静かなひとときがやって来ます。
ⅱ 冬の京
ここからは、京都の冬景色をご紹介します。
先日まで賑わっていた納涼床の営業が終わり、鴨川は静かな川に戻っていました。

納涼床のシーズンに川にせり出していた床は今はもうありません。


夏、夜の帳がおりた鴨川は本当にエンターテイメントのステージでした。
床が畳まれ夕涼みの若者もいなくなった鴨川。
冬枯れの緑は寂しい気もしますが、春またあの賑わいが戻って来るまでしばしの休息です。
哲学の道に行って見ました。
疎水の脇に敷き詰められているのは、桜もみじの葉っぱです。

哲学の道は、京都大学の哲学者・西田幾多郎がこの道を散策しながら思索にふけったことに由来して名付けられたそうです。
それより以前も、明治の文人たちが多く住み、「文人の道」と呼ばれていたこともあります。

春や秋の観光シーズンは、この1.5kmほどの道へ多くの人が訪れました。
もしも哲学の道が ″哲学の道らしく ″ なるとしたら(笑)。
それは観光客がほとんど訪れない今のタイミングかもしれません。
本を小脇に抱え思索に耽る、疲れたら小径の喫茶店でティーブレイク、いかがでしょうか?
落葉樹が葉を落とした疎水に、赤い南天を見つけました。

お正月飾りでよく目にする南天は、「難を転ずる」ところから、お正月の縁起物とされています。



冬の京都でよく見かける赤い実は、写真のように南天、千両、万両といろいろ。
どれも名前のとおり縁起物ですが、よく見ると実の付き方が違っています。
幹の先端にブドウの房状に付く南天、葉の上に空を向いて付く千両、葉の下に2つセットでサクランボのように垂れ下がる万両。
香りがするのは、千両、南天、万両の順番だとか。訪れたら、ぜひ試してみてください。
神社に出かけて見ました。
大きな絵馬は、京都で一番最初に絵馬が見られる松尾大社です。

令和8年は「馬」。
拝殿の絵馬は、お化粧をした白馬に平安貴族がまたがって駆けているよう。

この季節、初詣まではもう少し時間があるので松尾大社駅も人影はまばらでした。
しーんと静まり返った空間にレトロな駅舎とアンティークな時計や照明。時間がゆっくりと流れています。

そう言えば、2年前の辰年を迎える師走、上賀茂神社を訪れたことがあります。
二の鳥居をくぐったところに2枚の龍の屏風と、2つの砂山がありました。

神秘的な雰囲気に、おもわず巫女の方に尋ねたら………。
2つの砂山は、「立砂(たてずな)」といって神様が降り立つ憑代(よりしろ、場所)らしいです。

5月5日に競馬会神事(くらべうましんじ)が催され、馬にご縁がある上賀茂神社。
午年は初詣も賑わうので、あの立砂にお願い事をするとしたら、誰もいないこの季節の方がお勧めです。
もしかしたら、これは ″ 京都らしくない ″ 冬の風景だと思われますか?
写真は、2024年・クリスマス・イブの北山通り。
実は教会の数も多い京都では、ノスタルジックなクリスマス風景に出会うことができます。

夕方6時を回ったぐらい、通りは厳かな灯りに包まれます。


ノーザンチャーチ北山教会、北山ル・アンジェ教会、ノートルダム学院小学校、北山バプテスト教会……どのクリスマスも静かな聖夜の灯りの中。包まれていました。


都会のクリスマスとはまた違ったほっこりするひとときです。
ⅲ 編集後記
冬の京都は、観光シーズンの混雑から解放され、なかなか実現しにくい食の愉しみにも遭遇します。
人気店でいつも順番待ちの鍵善良房(かぎぜんよしふさ)さん。

四条通の八坂神社のそばにあるお店は、葛切りが一番の人気。


この日は、冷えた体を温めようとおしるこを頼みました。
お椀の蓋に湯気がいっぱい、おしるこの温かさが体に沁みます。



お土産の和菓子は、「冬ぼたん」、「かぶら」、「幕が開く」。
「幕が開く」は、そばにある南座の歌舞伎のどん帳をイメージされつくられたそうです。
最後は、貴船神社と金閣寺の冬景色、それから2024年1月25日に久しぶりに大原に積もった雪景色と春をご覧ください。

最近は温暖化の影響か、京都で雪景色を見ることが難しくなりました。
雪は私たちが自然や建物に感じる魅力を何倍にも膨らませてくれます。

今回の『冬の京都、優しい時間。。』は、2005年1月から3月にフジテレビで放送された『優しい時間』をお手本にしました。
ドラマ『優しい時間』の脚本を書かれたのは、あの『北の国から』の倉本聰さん。
主人公・涌井勇吉(寺尾聰さん)は、妻を交通事故で亡くし会社を辞め、富良野で喫茶店「森の時計」を始めます。
事故は、息子の拓郎(二宮和也さん)の運転ミスが原因で、父子の関係は断絶していました。

ドラマは、時間をかけ少しずつ和解する親子と二人が交わる人々の姿を、秋から冬、冬から春へと描いていきます。


倉本聰さんは、喫茶店「森の時計」に ″ 森の時計はゆっくりと時を刻む ″ と書いた壁掛けを飾ったそうです。
それは、私たちの時間がどんどん速くなっていることへの倉本さんからのメッセージです。
現代がいかに時間を忙しく消費しているか、もっとゆっくりと自然な時間の流れを取り戻そうという思い。

冬の京都を訪れると、そんな倉本さんの ″ 優しい時間 ″ に出会えると思います。
