舞鶴からの贈り物
ⅰ 若狭の海
12月26日朝、「まいづる1号」が西舞鶴の駅に到着した時、山肌はすっかり雪に覆われていました。

この日は舞鶴に初寒波が到来、観光シーズンをとっくに過ぎた駅の改札口は人影も疎らでしーんと静まり返っています。
そんな悪天候の中、今回の企画は「ぐじ」に出会う旅。

道中、JR東海が発行する雑誌『ひととき』で見つけた「ぐじ」の写真だけが心強い応援団でした。
ところで、『京都スケッチ』ではあまりご紹介したことがない舞鶴はこんなところです。
歴史好きな方は、「軍港の街」や「シベリアの引き上げの地」を思い浮かべるかもしれません。

実際に東舞鶴の港では今も自衛隊の巡洋艦などが停泊していて往時の面影を知ることができます。
京都の伝統野菜、佐波賀だいこんや、佐波賀かぶ、舞鶴かぶが収穫されるのはここ舞鶴。


″ おばんざい ″ でも有名な、あの肉厚の万願寺とうがらし、万願寺ししとうの産地としても有名です。
そして、舞鶴は日本海屈指の大きな湾があるところ。
福井県の西端・越前岬と京都府の北端・経ヶ岬を直線で結ぶと100kmもあります。
およそ総面積が2,657㎢の若狭湾。

対馬暖流が北上し水深300mの深い海域で栄養に富む日本海固有水とぶつかり、一年を通じて豊富な海の幸を収穫することができます。


歴史を紐解くと、こんな海が「近江商人」や「鯖街道」の名前を全国に広げていったのかもしれません。
ⅱ くじ
京都は、「旬の魚」の話題が絶えない街です。
例えば、真っ先に思い浮かぶのは、美山や琵琶湖、上桂川で獲れるアユや、瀬戸内海から届けられる鱧。


鋭い歯を幾つも持った鱧が料理人の手にかかると、あっという間にこんな姿に。

弓のようにしなった中骨まで出汁になる「鱧ストーリー」は圧巻です。https://yoshibe.gorp.jp/ 由兵衛さん
そして若狭から京都に届けられる「ぐじ」も知る人ぞ知る魚。
全国的には「甘鯛」と鯛の名が付くのに、正式にはスズキ目・アマダイ科の魚です。

特許庁のホームページを見ると、若狭ぐじには「商標登録第5089308号」の番号が付いていました。
さて、そんな若狭の「くじ」は、いったいどんな料理に変身しているのでしょうか?

早速、西舞鶴の「あかつきさん」の暖簾を潜ってみました。( 京都府舞鶴市字伊佐津249番地 JR西舞鶴駅西側 TEL.0773-60-6262 https://www.maizuru-akatsuki.net/ )
最初にいただいたのは、「ぐじ」の塩焼きです。

こんがりと皮が焼けた「ぐじ」。
振り塩をして一晩寝かせた「ぐじ」は、焼き上がった時に身がしっかりと引き締まっているとか。

確かに女将さんの言うとおり。でも、それでいてふんわりと柔らかくて口の中で甘みが広がります。
塩焼きをいただきながら、荒れた日本海の「ぐじ」漁の難しさをお聞きしました。

「ぐじ」は海の底で生息している魚。
浅い海から水深300mくらいの砂泥底に生息する「ぐじ」を獲るのに、底延縄(そこはえなわ)という漁法を使います。
身が柔らかい「ぐじ」を一匹ずつ傷つけないよう、漁は丁寧に進められるとか。そんなお話を聞くと、パリッと焼かれた皮の風味も格別でした。
続いて女将さんが持って来てくれたのは、「ぐじ」の酒蒸しでした。

藍色の器に絵のように綺麗に収まった「ぐじ」。
女将さんのアドバイスで身を崩してポン酢につけていただきました。

張りのあるプリプリした食感と、深海の色々な栄養が詰め込まれた一品です。
昆布などで丁寧に時間をかけ出汁をとった「ぐじ」の甘みが口の中で広がります。
ふっと江戸時代の北前船で届けられた利尻の昆布を思い出しました。
京都の出汁文化のルーツは、ここ舞鶴にもあったんですね。
そして「ぐじ」の唐揚げです。

口の中に入れた最初の食感は、スナック!! とっても香りが良く、表のサクッサクッ感と中身のほくほくした食感が絶妙です。

身が崩れやすい「ぐじ」に塩をして一晩寝かせ、身に弾力感をつける……唐揚げは揚げ過ぎずに匠の技でサッとお皿に盛るのがコツだそうです。
京都の料亭などでは、昔から ″ 困った時の「ぐじ」頼み ″ と言われました。
お刺身や煮付け、昆布締めやかぶら蒸しのお料理など、「ぐじ」は料理人の腕で様々な料理に変身します。
急な献立の時には、料理人の心強い相棒なんですね。
今回はお目にかかることができなかったのですが、「ぐじ」の若狭焼というのがあります。
鱗がついたままの「ぐじ」の背中を開き、振り塩をして一晩寝かせたものに日本酒を塗りながら焼き上げるこの地方の名物です。ぜひ機会があったら、食されてみてください。
ⅲ 編集後記
最後は『あかつきさん』でいただいた「ぐじ」以外のお料理を見て頂きながら、『舞鶴からの贈り物』はすべての発送を完了します。(写真は、地物のにぎり、さざえ、鯛茶漬けです。)

若狭は、平安時代のもっと以前から、都の天皇へ贄(にえ)と呼ばれる美味しい食材を届ける御食国(みけつくに)とされていました。若狭の他にも志摩や淡路がそうだったらしいのですが、どの地名も美味しい魚で有名なところです。
西舞鶴から東へ40kmほど東に行ったところに福井県の小浜というところがあります。あの鯖街道で京都の出町柳と結ばれた北の出発点です。
その昔、大きな若狭湾の豊富な食材はおよそ80kmの険しい山越えを繰り返し都へと届けられました。「さばを読む」という日本語は、魚を届けた行商人が一日でも日数を短く申告して高く買い取ってもらうためだったと言われています。

いにしえに思いを馳せながら、若狭で「ぐじ」をいただく。厳寒の日本海で食の恵みに感謝!!
P.S. 2026年1月4日(日)からNHK・BS番組(夜10:00~10:45)で『京都人の密かな愉しみ Rouge(ルージュ) ―継承―』がスタートしました。
実は、2015年1月から2017年5月にはじめて放送された『京都人の密かな愉しみ』の中に、日本海の海の幸を印象付けたこんなシーンがありました。

それは、団時朗さん演じた洛志社大学の教授・エドワード・ヒースローが、老舗和菓子屋の若女将・沢藤三八子(常盤貴子さん)に憧れ……。
でも、エドワードは自分を追いかけてきた、ちょっとしっかり者のイギリス人・エミリー・コッツフィールドから逃れるため、極寒の冬の日本海にやって来ます。
持ち金も底をつき、途方に暮れるエドワード。
「いいなづけ」と「憧れ」の女性に挟まれ、まるで″ 最後の晩餐 ″ のように、冬の日本海の味覚、間人(たいざ)ガニを頬張るんです。
見ている方はちょっと同情しながら、でも美味しそうなカニに思わず身を乗り出してしまうのでした。
