白川が流れる京の街
ⅰ京都・柳の物語
☆銀座・数寄屋橋交差点の柳と夜景。
白川は、不思議な魅力がある川だと思います。
鴨川や桂川のような存在感のある一級河川とも違いますし、高瀬川や琵琶湖疎水のようにガイドブックに大きく紹介されるスポットとも少し違っています。
今回のブログ『白川が流れる京の街』のお話の前に、白川の魅力の一つ「柳」について、『京都知新』さんの『京都に里帰りした銀座の柳の物語』という記事をご紹介します。
記事によると、京都の六角堂というお寺にある ″ 六角柳 ″ が、ず~っと昔、銀座の街路樹として植樹されたことがあったそうです。
☆六角堂は、お華・池坊の発祥の地です。
ところが、大正時代になって銀座の街がどんどん発展していくと、道路整備のため柳は撤去されてしまいました。
それから時を経て、昭和の時代、『東京行進曲』という歌謡曲が大ヒットします。「昔恋しい銀座の柳♪♪♪」の歌詞とメロディは、どこかで聞いたことがありますね。
『東京行進曲』の大ヒットで、あの柳をもう一度!という声は、有志による二代目の柳誕生を実現させました。写真の数寄屋橋交差点の柳が二代目の柳です。
☆高瀬川 四条から三条あたりの高瀬川沿いは柳が多く見られます。
それから、時代が進んで平成の時代。京都の木屋町通を流れる高瀬川に、銀座の柳を持って来ようという企画が進められ、今では柳の風景は高瀬川に欠くことができないものになりました。
京都で生まれた六角柳は銀座の柳並木になって、やがて銀座の二代目柳が、とうとう故郷の京都・高瀬川に戻って来ることになった!
『京都に里帰りした銀座の柳の物語』はこんなお話でした。
( 『京都知新』https://www.mbs.jp/kyoto-chishin/kyotocolumn/walk/ )
ⅱ 祇園白川に人が集う
☆祇園白川と花街
新緑の季節、白川が流れる柳のまわりはインスタ映えするスポットです。
祇園白川や花見小路、行者橋には、写真を撮る人の姿が多く見られます。
祇園白川の辰巳大明神には、いつも新郎新婦が写真撮影をしている姿を見かけます。
☆桜の季節、祇園白川には花見客がたくさん集まります。
少し季節が前後しますが、白川は桜の季節も人気です。
ベニシダレが満開に咲くと、花街の漆黒色や樺色(かばいろ)の建物にとても映えます。
四季を通じて旅人が絶えることのない白川ですが、ここを訪れるのは旅人だけではありません。
花街でお仕事をする舞妓さんや芸妓(げいぎ)さんたちは、この川がとても好きだとお茶屋の女将さんが教えてくれました。
あるテレビのドキュメントで、お仕事が休みの日に舞妓さんが祇園白川を散策しているシーンがありました。
普段なかなか見かけることはできませんが、お仕事の緊張感から解放され、白川を散策してつかの間の気分転換をされていたのかもしれません。
いろいろな人を惹きつける白川。この川はいったいどこからやって来たの? ふとそんなことを思って、その源流に出かけてみることにしました。
ⅲ 白川を辿る
☆琵琶湖疎水
京都の水系を調べると、白川は琵琶湖疎水や哲学の道のように人工的に造った水路とは違い、正式には「淀川水系一級河川鴨川の支流」という位置づけになるそうです。
地図で調べると、滋賀県と京都府に連なる比叡山(標高848m)と如意ヶ嶽(にょいがたけ、標高472m)に源を発し北白川で京都盆地に入ってくるようでした。
☆白川の源流近く、山中バス停
京阪バスの運転手さんに道を尋ね、降り立ったのが白川の源流が近い「山中」というバス停でした。
☆ 白川の源流近く
バスを降りた瞬間、府道30号線のそばからゴオーっという音が聞こえます。覗いて見ると、山あいから吹き出た水がしぶきになって下ってきます。水の勢いはとても強く、ここが源流に近いんだと実感しました。
水は急な山の傾斜のところで大きな岩肌に幾つもぶつかります。あの祇園白川を流れていた水よりも、もっと真っ白です。
府道30号線は大津市へ抜ける幹道らしく、ときおり車は細い山道を走り過ぎていきます。
☆川底は白く光っています。
源流からはずいぶん遠ざかっているはずですが、時々、写真のように湧水が噴き出してきます。
気のせいか、川底の白い石が流れの早い水に削られていくような感じがしました。
北白川地蔵谷町の辺りに、山の神を信仰する山岳信仰の修験道の建物が見えました。
☆山岳信仰の道場が幾つかあります。
比叡山延暦寺があるこの山は、京都に宗教が生まれた場所でもあります。
北白川琵琶町のところで、府道30号線に沿って流れていた白川は、30号線のカーブよりももっと大きくU字に変わりました。
そして、突然、こんな光景が目に入ってきました。
☆白川砂のたまり場。
真っ白い砂浜。
ここが、比叡山の山の中だと知らないと、どこかの海岸の砂浜のように錯覚してしまいます。
近くにあった京都土木事務所の看板には、ここに白川砂を溜め水の流れと付近の災害防止に心がけていると書かれていました。
この白い砂は、源流から流れてきた白川が運んできたものだったのです。
☆白川と立体交差する琵琶湖疎水。
ようやく京都盆地に入った白川は、銀閣寺のそばで写真の琵琶湖疎水分線の上を流れる立体交差をします。
琵琶湖疎水は、白川の下をくぐって流れていくんですね。
この方式を「サイフォン」と呼ぶそうです。(コーヒーのあのサイフォン方式です。)
☆白川と琵琶湖疎水の合流地点。
やがて、白川は京都市動物園の横で琵琶湖疎水と合流しました。
その様子を疎水の対岸から撮影した写真です。
緑の木々の下から琵琶湖疎水に流れる白川は、真っ白い白川砂の色がくっきりと見られます。
☆黄色の矢印のところから、また白川に戻ります。
ほんのわずかな距離、琵琶湖疎水と合流した白川は、仁王門橋のところでまた再び白川の流れを取り戻します。
でも少し歴史を振り返ると、琵琶湖疎水は明治になって建設された人工河川なんですね。
疎水ができる前の白川の流れがどんな風だったのか、また新たな想像が膨らみました。
☆観光スポットの行者橋。
やがて白川は、あの"行者橋(ぎょうじゃばし)"のたもとにやってきました。
一本橋とも呼ばれ、手摺のないこの橋は、比叡山の阿闍梨修行で千日回峰行を終えた行者が、京の街に入洛する時に最初に渡る橋だったそうです。
橋を挟んで東(左側)は修行の山・比叡山の方角、西は祇園花街、行者が一本橋を渡る意味は大きかったんですね。
☆白川は、四条通の少し北側(赤い矢印)で鴨川に合流します。
そしていよいよ白川は、祇園の一番の観光スポット辰巳大明神がある花街に辿り着きました。
比叡山の源流からおよそ10km、白川はその終着点、四条大橋近くの鴨川へ合流しました。
取水口から流れ出た白川の水が、鴨川の水と一緒になる時に、わずかに白い帯になっているのがわかりますか ?
ⅳ 編集後記
☆白川の付近の花街・歓楽街 上から順番に祇園白川、祇園花見小路、四条大橋、四条河原町、先斗町
白川の不思議な魅力。それはどんなところにあるのでしょうか?
桜井旬は、白川が花街で暮らす人や旅人に安らぎをもたらしてくれることではないかと思います。
そして、その安らぎがどんなところから来ているかというと、きっと白川が、″ 白い川 ″ だったから。
その意味は、こんな勝手な想像から来ています。笑
北白川琵琶湖町のU字形のカーブで出会った、あの美しい白砂は、比叡山の良質な黒雲母花崗岩からできていました。
白川砂の石英や長石、雲母が川底で白く光る姿は、あたりの柳や町家の佇まいにとても溶け込んでいます。
祇園は白川とは対照的に、とても色鮮やかな街です。
京料理だけでなく、世界中の料理の宝庫。お土産物屋さんに並ぶ品物も目移りしそうですね。
舞妓さんの衣装や祇園祭の山鉾にも24色のクレパスでも足りないほど、鮮やかな色彩が溢れています。
旅人はそんな街に心躍らせて時を過ごします。
一方、おもてなしをする舞妓さんたちにとっても、お仕事場は華やかな社交界の中にあります。
お仕事の緊張から解放された時、ひとときのほっとした時間を白川で過ごされるんですね。
もてなす側ももてなされる側も、その泡沫から解放されほっとできる空間、その安らぎをくれる場所が ″ 白い川 ″ なのかもしれません。
それから、京都人はこの「白」が有限であることを知っています。
☆二条城
実は、歴史的建築物が多い京都には、この白川石や白川砂が多く使われてきました。
写真の二条城の石垣や龍安寺の石庭の他にも、京都御所や桂離宮、銀閣寺の庭園にいたるまで……………。
″ 雨に当たると美しい純白色になる白川砂 ″ や、″ 白川砂の砂紋に反射した月光で堂内が照らされる ″ など、先人がこの白川石や白川砂を表現している文献も残されています。(『京都の寺院庭園における白砂景観の保全に関する研究』京都大学 張先生2018)
☆龍安寺・石庭
1950年、採石法の施行により北白川の花崗岩の採石が制限され、そして京都市風致条例(1970年)は比叡山と大文字山を風致地区に指定し、白川石の採石を禁止しました。
白川がもたらしてくれる ″ 白 ″ の有限さに、名残惜しさを感じられる方もきっと多いことでしょう。
″ 白い ″ 祇園白川の風景がいつまでも続いて欲しいと思います。
P.S.京都のお寺では、これまで使われていた白川砂の代替品砂利に取り組んでいます。
代替品は白川砂との差異が大きく、関係者は白砂景観が変質していかないよう、日夜、研究を続けているとのことでした。
【 祇園白川・辰巳大明神への行き方 】 阪急電車「京都河原町駅」下車 徒歩15分、京阪電車「祇園四条駅」下車 徒歩10分
☆ 辰巳大明神の真ん前に、「甘味どころ ぎをん小森」さんがあります。ぜひ、立ち寄ってみてください。075-561-0504