さば
『さば』と『京都』を、散策しました。
ⅰ さば寿司は、ハレの日のご馳走
さばの塩焼き、味噌煮、竜田揚げ、さば大根に南蛮漬け………さばは、日本人の食卓に彩る献立の一つです。保存食としてのさば缶は、忙しい現代人に欠かすことのできない大切な保存食になっています。
マサバ(Maruha-Nichiro資料から)
ところで、京都には「ハレの日」にさば寿司をいただくという習慣があります。
ハレとは、折り目や節目のことで、「晴れの舞台」(生涯に一度ほどの大事な場面)とか、「晴れ着」(=折り目・節目の儀礼で着用する衣服)という言葉も浮かんできます。
そして、この「ハレの日」に、京都人は、さば寿司と再会します。
(写真)「くじ取らず」の放下鉾は、21番目
2022年、三年ぶりに開催された祇園祭(前祭7月14日-16日、後祭7月21日-23日)。ずーっと京都の町衆が待っていたハレの舞台でした。巡行を終えたお祝いの席に、きっと、さば寿司も飾られたと思います。
下鴨神社の最も重要な祭祀になっている葵祭(5月15日)には、一匹丸ごとのさばが供えられているそうです。
祇園新地に、「いづう」さんという さば寿司を食べさせてくれるお店があります。1781年(天明元年)の創業で鯖姿寿司が名物のお店です。 (「いづう」さん https://www.izuu.jp )
いづうさんの鯖寿司
さばは、日本近海の脂がのった真鯖(まさば)、お米は滋賀県産の江洲米、寿司全体を包む昆布に北海道産のものを使って、さばの旨味がぎゅーっとつまった、とっても美味しいお寿司です。
人気の鯖寿司は、他府県からも訪れる人が多く、四条通の大丸デパートには専門店もありました。
でも、その昔、鮮度が大切なさばをどうやって新鮮なまま、京都に届けるのか、冷蔵・冷凍技術もなく、自動車も走っていなかった当時の人は、とても苦労したようです。
京都を訪れると、時々耳にする『鯖街道』のお話、少し調べてみました。
ⅱ 鯖街道
北西から南東に向って縦に長い京都は、海に面しているところがとても限られています。
京丹後市、伊根町、宮津市、舞鶴市、海に面しているところは、全て日本海です。都の人は、新鮮な魚を食べるのにとても困っていました。
美味しい日本海の魚を何とかして都まで届けるため、およそ1200年以上も前に、鯖街道はできました。
冬の敦賀港
幾つかある鯖街道のうち、最もよく利用されたのが若狭街道でした。小浜から熊川宿(福井県若狭町)、朽木村(くつきむら=滋賀県高島市)、大原を経て終点の出町橋西詰へとつながる80kmの街道を、歩いたり、馬に魚を積んだりして行商をしていたそうです。
小浜があった当時の若狭国は、古くから万葉集に出てくる「みけつくに(御食国)」として、新鮮な海産物などを朝廷に献上する役割を担っていたんですね。
当時は、冷蔵や冷凍技術のなかったため、捕った生サバを塩でしめ、丸一日かけて運んだと言われています。さばは、京都に着く頃にちょうど良い塩加減になって都人も庶民も、その美味な味を堪能したと言われています。
冬の小浜(車窓から)
でも、さばの行商は、険しい街道や峠を越えなければならず、特に冬は、雪深い場所もあって命がけだったそうです。そのため冬の運び手は少なく、さばは貴重な食材でもありました。
そんな大変な苦労が、小浜の藩主 京極高次の書いた『市場仲買文書』(1607年)に「生鯖塩して担い京行き仕るに候」という一文として残されています。そして、このことが、鯖街道の名称の由来になっているとのことでした。
雪が降り始めた近又旅館
ところで、四条通から御幸町通を少し上がったところに、近又(きんまた)さんという料理旅館があります。
ご主人から、近江商人がかつてこの宿を利用した経緯をお聞きしたことがありました。近江商人というと、「売り手よし、買い手よし、社会よし」の ″三方よし″ で知られ、日本の商売の礎を築かれた人たちです。
その近江商人も、鯖街道を通ってご商売に精を出し、仕事が終わると、近又さんで疲れを癒し美味しい食事で英気を養った……こんなところにも、鯖街道のロマンがあります。
☆ ご主人が創作される料理を、ぜひ召し上がって下さい! 「京都」がたくさんつまっています。それから、旅館のご主人や女将さんのお話も楽しいですよ。(『近又』さん https://www.kinmata.com/)
ⅲ 愛される鯖料理
京都でさば料理のお店というと、SABARさん。ナビを頼りに、烏丸通の五条の交差点をしばらく北へ。高辻通を西に入ったところに、鯖料理のお店「SABAR(サバ―)」はありました。
黒塗りの京の町家の佇まいをしたお店の壁には、『鯖』の字。どんなさば料理を食べようかと心待ちにしていた者にも、「さあ、食べてくれ!」と言わんばかり……ちょっとした緊張感です。(笑)
暖簾をくぐると、中には、テーブル席と座敷がありました。ブログを書いていて少しお話を聞きたいこと、出来れば中の写真を撮りたい旨を伝えたら、お店の方は快く笑顔で、奥の座敷を用意してくれました。
案内された座敷は、書院造で床の間にやはり『鯖』の額。雪洞(ぼんぼり)の灯りがぼぉーっと部屋を照らし、座布団に腰をおろすと先程の緊張感はどこへやら……。
すっかり寛いでいたら、ここに来た目的をつい忘れ、お茶を運んでくれた女性と目が合い、慌ててメニューを開く始末です。笑 (そうした訳で、食レポには不向きですので、ご勘弁を‼)
5分ほど、あれこれ悩んで………ようやく決心。 とろさばの味噌煮、お店自慢の胡麻さば、さばの南蛮漬け、さばの酢味噌和え、とろさばのサラダ、それから、とろさば漬け丼 、以上を注文しました。
とろさばの味噌煮
最初に出てきたのは、とろさばの味噌煮。(肉厚だなぁ~)、第一の印象でした。……と同時に、そのボリュームに、あんなに注文したけど、お腹、大丈夫??(ちょっと心配になりました。……だって、看板は、よく見ると、「とろ」、「とろ」、「とろ」ですから……)
ところが…ですね、肉厚のさばを、一切れ、口に入れたら、心配は、本当に杞憂に終わってしまったんです。脂がのっているのに、とてもあっさりしていて、味噌の甘身と一緒にふわーっと口の中に広がりました。パクパクと、ブログを書くことも忘れて、二口目、三口目、あっという間に平らげてしまいました。やがて、理性を取り戻し、お店の方に「脂がのってますね」と話しかると、「とろさばですから」とにっこり。やっぱり、ポイントは、と・ろ……か?
元祖SABARの胡麻さば
二皿目は、お店自慢という胡麻さば。
さばのお造りの上に、白ごまと、ねぎ、きざみ海苔がのっています。これは、博多名物のゴマサバをSABAR流にアレンジしているそうです。たれを絡めたさばを、薬味と一緒に頂くと、とっても、幸せな気分。
👈肉厚、胡麻さば
でも、この一切れ、やっぱり肉厚です。さばがこれだけふっくらしていると、薬味の九条ネギもほど良い加減の苦味で……絶品でした!
さすが、元祖SABARの胡麻さばです。
さばの南蛮漬け
お店の方が次に持って来てくれたのは、さばの南蛮漬けとさばの酢味噌和えです。
京野菜は野菜の味と香りがしっかりして、さばとの相性はとってもいいんですね。ここまで味噌煮と胡麻さばをいただいたので、実は少しあっさり系でと注文したのですが、とろさばも胡麻さばも脂が後に残らないので、南蛮漬け、落ち着いて⁇、堪能しました。笑
ところで、この南蛮漬けの揚げたさば、いけます! きざんだパプリカや玉ねぎとのコンビネーションもグット。食感を楽しめる一品でした。
さばの酢味噌和え
酢味噌和えのさばも、ジューシーでした。
青光りしたさばの表面が、また食欲をそそられます。
どうかすると、さばを少しバラした酢味噌和えもありますが、こちらの方が歯ごたえがあっていいですね。お酒のつまみにもあいそうです。
とろさばのサラダ
続いて、とろさばのサラダです。ずっと気になっていた″とろさば″のことを、お店の方に尋ねたら、こんな答えが返ってきました。
SABARさんの看板メニュー 八戸前沖さば(はちのへまえおきさば)は、マサバとゴマサバの2種類で特に脂がのっているさば。この一定の脂がのっているさばを、「とろさば」と呼ぶそうです。さばは海水温が18度以下に低下すると脂肪分が増すといわれ、例年9月に海水温の急激な低下が脂肪の多い八戸前沖さばをつくるらしいです。
だから、サラダと言っても、ただのサラダではありません。何と言っても、相手は″とろさば″ですから。(………)
こんがりと焼けたとろさばがふんだんに入ったサラダ。SABARさんの一押しです。
後で調べてみたのですが、さばには、相性のいい野菜というのがあるんですね。
さばとねぎは、ネギのにおい成分であるアリシンに血栓予防の効果があって、EPAとダブル効果で動脈硬化や心疾患を防ぐそうです。さばとパプリカは、パプリカにビタミンEが豊富なので、サバのナイアシンとビタミンEで血行促進、美肌効果が期待できるとのこと。また冷え性の方にもおススメだそうです。さばとトマトは、トマトの豊富なビタミンCが、サバの鉄分の吸収を高めてくれことも。
とろさば漬け丼
大トリは、とろさば漬け丼です。
前半は丼ものとして、後半は熱いさば出汁をかけていただくそうです。
さばの出汁、風味があって、まろやかでした。脂がのったとろさばの歯ごたえを楽しみながら、
もう一杯!……といきたいところでした。笑
とろさば漬け丼を完食して、一言!
メニューにあった、さばの串焼きとさばつくねも 注文しておきたかった……………。
とろさば尽くしの尽くし。本当に、ご馳走様でした。一つ一つの料理にお店の愛情が伝わってきました。
お店を出る時に、さば神社にお賽銭。早く、2回目のさば尽くしの日が来ますように。笑
さば料理の専門店『SABAR』さん https://sabar-karasuma.owst.jp/
ⅳ 編集後記
河原町今出川の交差点から少し北の出町橋西詰に、「鯖街道口」と書かれた碑があります。この場所から、高野川左岸を北上し、比叡山ケーブルで有名な八瀬や、三千院がある大原を通って、鯖街道は越前小浜へと続きます。
鯖街道は、日本海の新鮮な魚の輸送路として、またその後に生まれた近江商人が街道を行き来し、今につながる商業文化を育んでいきました。
とろさばをご馳走になったSABARさんに、全国で獲れるさばの産地が書かれたパンフレットがあります。
八戸前沖さばの他にも、金華さば、銚子極上さば、お嬢さば、境さば、関さば、紀さば、源さば、清水さば………全国には、たくさんの さばの産地があります。
一方で、近年、小浜の漁獲量は低迷しています。日本の海を回遊するさばの漁獲地も、時代とともに変わっていきます。小浜市では、名物のさばで小浜の魅力を発信するために、刺身でも食べられるさばの養殖に取り組んでいるそうです。
小浜のさばが、また元気になったら、鯖街道を歩いてみたいと思います。近江商人になったつもりで。時に「三方よし」とか、念じながら……………。笑