京たけのこを食べる

ⅰ 京野菜

原谷苑桜③AAAAP

原谷苑。10年前は桜の隠れた名所だった原谷苑も、今は人気のスポットです。

平安時代の歌人 在原業平(ありわらのなりひら)がこんな歌を残しています。

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(古今和歌集)

(もしも世の中にまったく桜という花がなかったなら、春を過ごす人の心はどれほど、のどかだったでしょうか?)

一輪二輪と春の陽気にのって咲いていく桜。三分咲き、五分咲きになり満開が近づくと、心は早く満開になって欲しいと願う。

ようやく満開になった桜にほっとしていたら、春の風や雨に桜が揺れ、いつまで満開でいてくれるかと心はそわそわしてしまう………桜が好きな業平らしい歌ですね。

京野菜➀

壬生菜。水菜にないちょっとピリッとくる辛さです。

ところで、今年の桜は、例年より一週間以上も早く満開になりました。

護王神社の例祭が行われた4月4日、市内の桜は一斉に散り始めました。

山科疎水や清水寺、円山公園に高台寺、天龍寺と大覚寺……いつもの4月4日だと、まだまだ満開の桜の下で花見をできる季節だったのですが……………。

 

京野菜④

九条ねぎ。背丈が80cm以上も伸びるのに、柔らかくて甘みと香りがあるねぎです。

そんな桜に未練を残しつつ(笑)、どこかに春はないかな?と街を散歩していたら………。

ありました・ありました‼

壬生菜、京なす、九条ねぎ、京都胡瓜、ふきのとう、あまどころ、行者にんにく、木の芽、たらの芽…………スーパーの店頭に並んでいる旬の野菜を見つけました。

 

京野菜⑤

色とりどりの春・山菜。

京都の寒い冬を越して大きくなった野菜は、どれも色鮮やかで手に取るとずっしりと重みがあります。

どんな料理にしようかと作り手の想像をかきたてる食材ばかりでした。

春はまだここにもあったと嬉しくなりました。

早速、京野菜をテーマにブログを書こうと調べていたら、京都には、3つの野菜の分類があることがわかりました。

京野菜②

賀茂なす。丸々とした賀茂なす、″野菜の領域″を超えていませんか?

京都の野菜は、一般野菜、新京野菜、伝統野菜に分かれているようです。

一般野菜は、「全国でも一般的に栽培されている馴染みのある野菜」だと何となくイメージができるのですが、新京野菜、これは?と思ったら、「京都の気候風土に合わせ開発・導入された新しい野菜」のことをいうそうです。

4月の新京野菜には、「京あかね」や「京てまり」という名前がついたトマトや、「京ラフラン」、「みずき菜」がこの中に入るそうです。

京野菜③

京都胡瓜。緑の色が濃くて、ピーンと張りがあります。

そして最後の伝統野菜ですが、これは正式に京都府農林水産部が定義した野菜で、「明治以前から作られていたもの」だということでした。

春に出荷される伝統野菜には、青味だいこん、賀茂なす、辛味だいこん、京うど、京せり、京たけのこ、京みょうが、九条ねぎ、はたけ菜、花菜などがあります。

食べたことがあると実感できる野菜もありますが、もしかしたら知らずに食べていた野菜もあったかもしれません。

今はスーパーなどでも、産地や食材の特長を説明書きに書いてくれるところも多いですね。

京都を訪れたら、スーパーを覗いてプロのメッセージに触れるのも、「ああ、京都!」を体感できる瞬間かなと思いました。

そう言えば、京野菜と言うと京都府庁のそばにある『晃庵(こうあん)』さんのことを思い出しました。

九条ねぎをふんだんに使ったおうどんがとても美味しく舞鶴産の万願寺とうがらしは格別でした。(京都府京都市上京区元頂妙寺町307−3 TEL 075-441-8808 )

ⅱ 京たけのこ

とり市老舗AA

「とり市老舗」さんの店頭に並べられた「京たけのこ」。

たくさんある京野菜の中で、どの野菜のことをテーマにしようかと考えていたら、たまたま通りかかった商店街に「とり市老舗」さんのたけのこを見つけました。

ふっくらとした「京たけのこ」に、皆さん、引き付けられてしまうみたいです。特に買物するわけでもないのに、写真を撮っていかれる方がいました。

とり市さんは、寺町の商店街の中でも、一際、目立ちます。秋には松茸がお店いっぱいに飾られて、香りを嗅ぐだけでも(笑)お得なスポットです。

(寺町のことは、2023年1月5日投稿の「寺町京極」をぜひご覧ください。)

錦水亭⑫

八条ヶ池に浮かぶ錦水亭さん。この風景、どこかでご覧になられたことはありませんか?

「とり市老舗」さんの店先で京たけのこのお料理を食べさせてくれるところをお聞きしたら、京都には幾つも美味しいたけのこ料理のお店があることに気がつきました。

いろいろ迷って、その中から、阪急電車で長岡天神駅を下車し歩いて8分ぐらいのところにある『錦水亭』の暖簾をくぐってみようと思いました。

写真が八条ヶ池に浮かぶように立つ錦水亭さんのお座敷です。

長岡天満宮のそばにあるこの景色、どこかでご覧になられたことはありませんか?

池波正太郎さんの「鬼平犯科帳」や「剣客商売」にもたびたび登場し、テレビドラマのロケ場所にもなったのでご存知の方も多いかと思います。

それでは、ここからは『錦水亭』さんのお料理と一緒にご覧ください。

木の芽和えA

木の芽和え。小さく刻まれたたけのこですが、木の芽と一緒に食べると、「春」の香りが口いっぱいに広がります。

たけのこの歴史はとても古く、日本最古の書物『古事記』(712年)に、たけのこが食されていた記述があるそうです。

たけのこ料理になるのは、主に孟宗竹(もうそうちく)で、中国が原産らしく、江戸時代に島津藩が琉球から持ち帰ったものが始まりだと言われています。

 

のこ造りA

のこ造り。たけのこの「のこ」の名前がついた「お刺身」。とても柔らかでわさびとの相性がぴったりでした。

『錦水亭』さんのさんのお料理には、職人さんが創作された旬の孟宗竹が次々と出てきます。

隣のテーブルに座られていた常連のお客さんが、孟宗竹の「京たけのこ」の季節が終わると、淡竹(はちく)や真竹(まだけ)がたけのこ料理のお店の食材になるとお話をしていました。

若竹すまし汁A

若竹すまし汁。湯気に木の芽とかつおだしの香り。

たけのこは過湿にとても弱いため、緩傾斜地で水はけが良いところで育てられるそうです。

それでいて、土壌は礫質(れきしつ)が少ない粘土質の乾燥しすぎない場所が良いとされています。

温暖な日本の気候はたけのこの生育にとても適しているらしく、一説には150種類とか、あるいはそれ以上のたけのこがあると言われています。

食されるたけのこには、先程の孟宗竹や、淡竹、真竹の他にも、根曲がり竹、寒山竹(かんざんちく)などが有名です。

じきたけA

じきたけ。直径が10cmほどある「じきたけ」。これをお箸で取って、がぶりとかぶりつきます。皆さん、インスタ映えする写真を撮るのに夢中でした。

健康ブームの日本では、春は、たけのこ料理が食卓の定番ですね。

栄養成分として、チロシン・アスパラギン酸・食物繊維・カリウムが含まれ、低カロリーでカリウムが豊富に含まれ高血圧などにも効果があるとされています。

 

筍寿司A

筍寿司。たけのこを巻いたお寿司の上に、ゆば、うにがのっていました。こごみやからすみもお寿司に彩を添えています。

インターネットで検索すると、たけのこを美味しくいただくレシピがたくさん紹介されています。

ある情報誌に、「新鮮で美味しいたけのこ」の選び方として、

➀うぶ毛がきれいに揃っている、②皮につやがある、③切り口がみずみずしい があげられていました。

焼竹A

焼竹。何枚も重なっている皮から、たけのこを取り出しました。 焼いた筍にお醤油の風味が絶品です。食べると、サクッサクッと音がしました。

京都のたけのこの産地は、乙訓(おとくに)が有名です。

いろいろなところに歴史を感じさせる京都ですが、乙訓はその昔、713年(和銅6年)に弟国(おとくに)から名前が変わった地域です。

 

むしたけA

むしたけ。とろみの中にあるよもぎの団子。包まれた中には、たけのこの他に、貝柱などが入って風味も歯ごたえも豊かです。

今は、向日市、長岡京市の全域と伏見区、南区、西京区の一部で「乙訓産」のたけのこが採れます。

この地域の500haある畑のおよそ半分ぐらいが、たけのこ畑になっているそうです。

乙訓産のたけのこは、竹林をふかふかの土壌に改良し日当たりをよくする工夫をしているそうです。

ここから、柔らかくてえぐみが少なく、香りがいい「京たけのこ」は誕生します。

てんぷらA

てんぷら。三色のたけのこ。グリーンは抹茶味、ピンクは海老の香りがしました。

たけのこは「朝掘ったら、その日のうちに」と、言われます。

掘りたてのたけのこは生のままでも食べられるのですが、時間がたつとアクが出て苦味やえぐみが強くなります。

お店の方に教えて頂いたのですが、この「朝掘り」、ただ早朝に掘り出したものだから、美味しいとはいかないそうです。

酢の物A

酢の物。土佐酢のジュレ。ピンク色はくじら。その上に小さな丁子茄子(ちょうじなす)がのっていました。

朝のうちにお店に出かけて、「朝掘り」のたけのこを買ったら、数時間のうちにすぐに下処理をしてしまう。

それでこそ、「朝掘り」の意味があるそうです。

ところで「丁子茄子」と説明を受けた赤いヘタのようなもの。後で調べてみたら、茄子の幼果を酢漬けにしたものでした。

のこめしA

のこめし。たけのこ飯の「のこ」をとって、そう言われるそうです。

錦水亭さんの料理の最後は、のこめしです。

柔らかい「京たけのこ」と軟らかい水で炊いたご飯はとても美味しく、つい「おかわり」と言いたいところでした。

 

 

ⅲ 編集後記

たけのこイメージA

まだ冬が来ない時期、「京たけのこ」の孟宗竹は、その芽を地中で少しずつ伸ばしていき、冬、地中の温度が5度以下になると生育を一度停止するそうです。

そして早春に地温が5度を超えるようになると、また芽を伸ばしはじめます。やがて地温が10度に近づくと地表に顔を出し、たけのこ農家の方は長年の勘と技術で朝掘りの「京たけのこ」を収穫していきます。

地表に芽が出て10日もすると料理には適さない「京たけのこ」。あらためて、ほんの一瞬の春の恵みを頂いていることに気がつきました。

「たけのこ」は漢字で書くと、「筍」。たけかんむりに「旬」と書きます。

日本語大辞典で調べると、旬には「しゅん」と「じゅん」という読み方がありました。

魚や果物、野菜など、一番美味しい季節を表す「しゅん」と、暦の上旬、中旬、下旬など、10日間を表す「じゅん」。

たけのこには、日本人の季節感がいっぱい詰まっているんですね。

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